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2010年03月08日

高野長英「夢物語」

高野長英「夢物語大賞」

 (応募するつもりで下書きを書いていたものですが、

   締め切りを間違ってしまい投稿できませんでした。

    そこでコラムとして発表しましょう!!)

   

 私は二十代にある青年団体の先輩から岩手県の特産品とは「木材と人材」であると教わった。当時はなるほどと思う程度で、これまで思い出す事もなく過ごしてきた。平成21年3月、私は東京都板橋区のある工房を訪れていた。集まってきた人はほとんどが建築に関わる面々。私は内容も分からず案内にある「タオルと着替えを持ってきてください」という文面に首をひねりながらの参加であった。首にタオルを巻きTシャツ姿で、まるでサウナを楽しむかのような格好に着替えると木製の箱の前に案内されていく。その木製の箱の扉を開けると中から木材の甘い香りと同時に多少の蒸し暑い空気が放たれていた。箱の中央には杉材が並べてあり、この周りに参加者二十名ほどが車座に座り込むこととなった。

 ここは木材乾燥機「愛工房」の中である。業界の常識では木材乾燥機の中に人間が入るなどとはありえないことだと発明者の伊藤好則さんが、笑いながらこの乾燥機への思いをトツトツと語り始める。「木も人間と同じように生きている。人間が心地よく感じる温度なら、木だって気持ちがいい」と語る伊藤好則さん。世界初といわれる木製の木材乾燥装置・愛工房は杉板の乾燥中で、その中はまるで温室のように快適な温度が保たれていた。

 愛工房の特長は、40〜45度の低温稼動で木の性質を損なわずに短時間で乾燥させられる点だ。しかも短時間乾燥によって生産回転が速くなり、電気を使用するが低燃費でコストが大幅にかかることもなく、環境への配慮ができる。なにより、特に乾燥が難しいとされる杉板でも、たった1日で含水率を10%台にまで下げることができるうえ、従来は硬くて避けられていた節の部分も簡単にカットできることから、木材の乾燥技術における画期的な開発として業界や学会での注目度も高い。しかし「ありえない!」「ペテンだ!」として無視する関係者の方が圧倒的に多いのが現状である。

 実は私はサウナが苦手である。あの息苦しさに我慢できない。だが九十分ほどこの中に滞在したが、サウナのようにジットリした汗をかくこともなく息苦しささえ感じない。汗はかくのだがなぜかしらサラサラとしているのである。伊藤さんが言うには「この中で木は人間が吐き出すCO2を吸収してくれる。そして木に含まれる水分や成分は蒸発して人間の身体に吸収されていく。さらに身体があたためられることで、ここに来てリラックスできる人や、肩こりなど身体の不調が改善された人もいる」とのこと。まるで森林浴でもしているかのような快適さにしばしウットリとする。この愛工房では、木材を乾燥させる際に施主さんも一緒に招き入れ、木の持つ本来のパワーを体感していただいているそうだ。おのずと我が家に愛着が増すことは言うまでもない。

 さてわが日本国は、国土に占める森林面積の割合はフィンランド、スウェーデンについで世界第三位の森林大国である。にもかかわらず、毎年世界の約3分の1の木材を消費している輸入大国でもある。豊かな国内の森林を生かしきれていない。何故、外材を大量に輸入するのであろうか?理由は簡単「安上がり」だから。もっと詳しくいうとその最大の原因は木材の「乾燥」にあるのです。乾燥にお金がかかることが問題でした。日本全土に生えている樹木の約四分の一は杉である。ところが杉は国産材の中でも、非情に乾きにくい。乾燥がとても難しいことが、日本の林業界に立ちはだかる大きな壁となっていました。理想は自然乾燥であるが、資本優先の世の中ではお金を寝かせておくゆとりはない。これが国内の林業の悲劇を招いているのです。誰もがすぐにお金になるものへ手を出し、林業関係者は高齢者ばかりとなっています。かつての林業大国岩手でも里山の文化を後世に伝える術もなく、共同体として維持できない限界まできている集落が多くあります。国内の林業の不振には木材流通の複雑さも相まって、山で実際に木を伐り出す人々は年収百万円代と若者にとって魅力ある仕事ではなくなっています。

 そこで伊藤さんたちが考えるプロジェクトは「すべて山の木工工場で済ませる」という林業の川上化である。林業の現場の過疎地に仕事をつくることで、若者たちにとって魅力的な就労の場を生み出すことにもなる。それにはコンパクトで広い土地も必要としない初期投資の少ない木材乾燥機「愛工房」が不可欠となってくる。木材を切り出すばかりの林業ではなく、そこで乾燥させ付加価値をつける。隣に木工所も併設し、いわてブランドの建具や椅子、机を製造販売することが可能となる。都会から観光客を呼ぶ資源ともなり得るのである。

 但しこれにも問題が一つだけある。それは、流通の出口を先に作ってあげることである。どんなに良い物を作っても売れなければ糞づまり状態となって体調を壊すことは明確である。これには行政の支援も不可欠となってくる。更には、林業の道具に関する技術開発も忘れてはならない。フィンランドには六本足で動く伐採機械がある。チェーンソーで伐採する二十人分の仕事を一人でこなすという。この運転資格は国家試験が課せられとても難関だと聞く。しかし有資格者は三年で家が建てられる位の年収が約束されるという。林業はとても魅力的な仕事なのである。この機械は一台数千万円するというが、岩手の大学に持ち込み地元企業と共同研究して、岩手の山にあった機械を早急に開発することが急務である。決して私は「愛工房」のセールスマンではない。しかし愛する岩手の森林が活用もされず荒廃していく姿を見るにつけ、開発者の伊藤好則さんの真直ぐな姿勢こそがこの難局を乗り越える唯一の方法だと確信するようになった。岩手県議会議員の高橋元さんにこの「愛工房」の資料をお届けしたら、早速東京に行って「愛工房」の乾燥機に入ってきたとの報告があった。真剣に岩手の森を考えてくれる議員がいることに力をいただき感激している。

 杉の学名は「クリプトメリア・ジャポニカ」という。これは「隠された日本の財産」という意味である。私たちの日本人は宝の山に囲まれていることになる。なるほど、各地の神社のご神木は杉を祀っている。杉材で家を建て、杉皮で屋根を葺き、杉の床を張る。建具、樽、桶、おひつなどなど、私たち日本人の暮らしは杉とともにあった。私たち日本人の先祖は、日本の風土に一番適している木材が杉であることを知っていたのである。ここに紹介した「愛工房」を開発した伊藤好則たちは、すでに日本各地で林業の川上化プロジェクトを進めている。

 ここに書いてあることもほとんどが受け売りである。しかし、良いものはそのまま真似をした方が良いと私は思う。なぜなら日本の山、岩手の林業の実体を見る限りもう時間があまり無いからである。加えて、過疎化・雇用対策としても有効な方法だからである。限界集落といわれる林業過疎地域、すなわち岩手県各地の林業の川上に「愛工房」を設置する。それに「家具工場」「建具工場」「木材加工工場」を併設することで、地元の雇用を確保できるのである。

 私は小さな住宅リフォーム工事店の経営者であるが、「日本の隠れた財産」杉を活用することで岩手の林業を立て直したい。しいていえばいま私にできることをするだけである。

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